からだと自然, こころ
断食と科学的な議論 − 絶食療法の効用にまつわる古今東西の考え方とは
Glass Story
断食は科学的か
断食の効用には、賛否があります。
科学的な見解では、反対の声のほうが優勢かもしれません。
これだけの栄養素が必要だ、といったような足し算が考え方の前提にある近代栄養学では、「ゼロ」である断食には異論が出るのも当然だろうと思います。
一般的に断食というのは、科学的云々というよりも、疑似科学や信仰の一種だと捉えられる傾向が強いのではないでしょうか。
しかし、一方で、昨今では断食(ファスティング)が人気モデルや若い女性のあいだでも行われるなど徐々にその苦行のようなイメージも変わってきた節もあるかもしれません。
若者を中心に人気のビジネス雑誌wiredのweb版では、先日、断食の効用にまつわる科学的な検証が記事になっていました。
断食の間に、体は、損傷し老化して不要となった細胞から解放されます。(……)断食は、文字どおり新しい免疫系を作り出すのです。
数日間食事を控えることが人体に害を与えるという証拠は何もありません。その一方で、特筆すべき恩恵をもたらすという強力な確証が存在します。
また、過去にNHK BSで放送されたフランスのドキュメンタリー『絶食療法の科学』では、モスクワの病院で実施されている断食(絶食)療法に関する特集が組まれていました。
この絶食療法の試み、そもそもの始まりは、1950年代に、モスクワの一人の精神疾患を患った患者が、食事を拒絶したことに端を発すると言います。
そのとき病院関係者が、強引に食べさせるのではなく、そのまま彼の様子を見ていると、その精神病患者は、たちまち快方に向かって「新しい人生」を踏み出すことができた。
その体験以来、その病院では、統合失調症やうつ病、恐怖症、強迫性障害など精神疾患に対して絶食療法を取り入れるようになった。
さらに、この断食は、精神疾患だけではなく、アレルギーや喘息、リウマチや関節炎、内臓疾患、その他、様々な病気に効果を発揮しました。
その成功を踏まえて、1995年からはロシアの温泉地でも保険適用のもと絶食療法が行われていると言います。
古い歴史や動物も
古い歴史を振り返ってみても、『無病法』という中世ルネサンス時代の講演録を読むと、断食とまでは言わないまでも、少食の効用が実体験をもとに説得力を持って語られています。
この『無病法』の著者であるルイジ・コルナロは、40代で重病を抱え、このままだと死は間近だと宣告、それから医師に勧められて「極めて少食」にするようにしました。
その「極少食」を始めると、まもなく病気は完治。思考も冴え、大きな仕事をいくつも成し遂げ、健康的に102歳まで生きました。
僕自身の個人的な体験、体感でも、様々な症状が軽くなるのは食べなかったあとです。体調だけでなく、心も落ち着き、頭が霧が晴れたようにクリアになる。
つい色々と余計な手を出したくなる人間以上に自然治癒のことを本能的に理解している動物たちは、体が弱ったり冬眠のあいだは自然と断食をするようになります。
宗教的にも、古今東西で断食は大切な習慣や行事となっています。
体を一定期間空っぽにすることで、自然状態に近くなった体は、自然の治癒機能をじゅうぶんに働かせることができる。あるいは、空っぽの感覚によって神と一体化したり無の境地にたどり着くのでしょう。
科学的かどうかという議論は、正直あまり意味がないことなのかな、とも僕は思います。自然は、科学では到底汲み尽くせないものですから。
ちなみに、モスクワの例のように、日本にも、絶食療法が可能な病院もあるのですが、まだ東京都の渡辺医院や松井病院の食養内科など一部で、健康保険も適用されません(民間の保険の場合は適用される場合があるかもしれません)。
もう少し広い視野に立って、この「食べない」と言う、きわめて安価で歴史のある治療法に、もっと注目を向けてもいいのではないでしょうか。
なぜなら、「絶食は、危険なものではなく、地球に生命が誕生した頃から存在する適応の一形態」なのですから。
食べない人たち (「不食」が人を健康にする) / 秋山佳胤他
〈ほがらな心には、ハーブティーもおすすめです。〉
