島の魅力を静かに歌う - NHK周防大島の特集ドキュメンタリー番組 | コップのお話 〜体と心と自然の物語〜
 

社会とビジネス

島の魅力を静かに歌う NHK山口県周防大島を紹介するドキュメンタリー番組

 
Glass Story

周防大島

インスタ ロゴ kiku_mayuru

 

ドキュメンタリーで紹介、周防大島の小さな物語

山口県、周防大島。

思春期によく聴いたロックバンド銀杏BOYZの元メンバーが、この周防大島で自然栽培のオリーブ農園を開いていると知って以来、この「周防大島」という名前が印象に残っていた。

また、ミシマ社の雑誌「ちゃぶ台」の特集が周防大島だったことも、この遥か遠い島について興味を抱かせるきっかけとなった。

そんな折に、NHKで島民の小さな物語を紹介した短いドキュメンタリー番組が放送された。

それは「ジャムの香りに導かれ」というタイトルで、東京からIターンで移住してきた一軒のジャム屋と、周防大島に住んでいた中年の商店主の話である。

移住してきたそのジャム屋を営む男性は、この島にこそ〈宝〉があるのだと言い、島の素材をふんだんに使ったジャムを作り、一躍人気を博していった。

その人気は、「売れるはずがない」と思い込んでいた島民を驚かせた。


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もともと島でパン屋を営んでいた商店主も、その一人だった。

 

 

島民の複雑な感情

彼は、若い頃、ゆっくりと活気の失われていく生まれ故郷の周防大島に嫌気が差し、東京や大阪を転々とした。その後、故郷に戻り、パン屋を開業したのだが、売り上げが乏しく、閉店せざるをえなくなった。

そのパン屋主人には、故郷に対して、複雑な、愛情と裏返しの憎悪のようなものがあったのだと僕は思う。

たぶん、それは戦後、各地で開拓が進み、地元から人々が都心に出ていってしまった、あらゆる地域で芽生えた感情なのだろう。

壊されていく景観と、離れていく地元の住民たち。

どうせ、この村には何の魅力もないよ。

どうせ、自分たちには何の魅力もないんだ。

だから、ジャム屋の男から、「この島で作られた本物の素材でパンを作ったらどうか」「値段が高くても大丈夫」と言われても、故郷の魅力を疑うパン屋主人は半信半疑で冷笑混じりの表情を浮かべるのだった。

ジャム屋の店舗の前で、その「周防大島産」のパンを初めて販売した日も、彼は試食を用意しなかった。

理由は、「ちょっと食べて《いいや…》となったら嫌だから」と言う。ジャム屋の男は、「そんなネガティブな」と笑った。

 

周防大島産の小麦に蜂蜜、天然酵母の食パンというのは、彼にとって、まさに愛憎相半ばする故郷そのものだったのだ。

だから、彼は、ジャム屋から出てくるお客さんたちに自信を持ってそのパンを勧めることができなかった。

たどたどしく声をかけても、その後の「おすすめする」ための言葉が続かない。それゆえ誰も買ってはくれず、また不安がつのるという連鎖が続く。

ついには販売所の席さえも離れてしまった。

見かねたジャム屋の男が、代わりに空席の売り場の前で接客をした。

通りすがる二人の婦人に、「これはすべて周防大島産の素材なんですよ!」と声をかけた。

すると、「じゃあ、二つ頂こうかしら」と婦人は言った。一斤が500円ほどの高価なパンである。

ジャム屋の男は、接客の際はもっと周防大島産だということを伝えた方がいいですよ、とパン屋主人に助言した。

パン屋主人が、そのことを心がけてから、少しずつ少しずつ、パンは売れるようになっていった。

彼は、そのことに驚きを隠せなかった。「周防大島産」というのは、そんなに魅力的なことなのか。「学ぶことが多いなあ」と、遠くの空を見つめながら呟いた。

 

 

宝は、この場所で探す

その後、パン屋主人は、地元に古くから伝わる「かいもち」というサツマイモもちと周防大島産の素材で作ったドーナッツを組み合わせた商品を町で売ってみた。

今度は堂々と、その商品を通りすがりの人々に勧めた。

地元の住民らしき年配の女性が、「この二つを組み合わせるなんて、考えたこともなかった。若いひとの発想はすごい」と褒めた。

彼は、照れ臭さとともに誇らしげな笑顔を浮かべた。

その笑顔と、海岸沿いに座って夕暮れどきの海を眺めるパン屋主人の姿が、番組の静かなクライマックスだった。

彼は、「灯台下暗しだったなあ」と言い、「ここで〈宝〉を探していこう」と呟いた。

 

ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 「移住×仕事」号

雑誌 ちゃぶ台 「移住×仕事」号 / ミシマ社

 

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 / 渡邉格

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2015-11-07 | Posted in 社会とビジネス