夢の話 〜 小学校の同級生と錠剤と母 | コップのお話
 

夢の記録

夢の話 〜 小学校の同級生と錠剤と母

 
Glass Story

夢の話

窓もカーテンも閉めきられた室内のような、薄暗く靄のかかった世界にいた。

僕の背丈は小学生くらいのようにも思えたし、高校生くらいのようにも思えた。

僕は、小学校の頃の同級生たちと教室で机を並べて班の形になっていた(教室は、古い造りの実家の座敷だった)。給食の時間。生徒たちはテレビを観ている。先生が観なさいと言ったのだと僕は認識している。

テレビ画面には、ビートルズの誰かがバスケをしているシーンが映っていた。これが格好いいということなんだよ、と先生は言った。

その映像について僕は椅子に座ってぶつくさと文句を言ったり講釈を垂れたりしていた。

映像が終わった。隣の席に座っていた中学の同級生のTが、僕に向かって吐き捨てるように「黙って観ろよ」と言った。「みんな観てるんだから、静かに観てろよ」。その言葉に、正面に座る女子(小学校の同級生のS)も同調するように頷いている。

机の上には錠剤が幾つも転がっていた。僕は無感情のまま黙ってその錠剤を手にとった。

僕は、錠剤を口に運びながら、きゅうに悲しみが胸にこみ上げてきた。僕は薬まみれで、ただ、こうして「ぶつくさ」とこぼす以外にないのに。僕は、「ぶつくさ」言わないと耐えられないのに。「そのこと」を、全然知りもしないくせに!

そして、ふいに何もかもがどうでもよくなった。

僕は席を立ち、「やめる」と言った。

Tは驚いた顔つきで僕を見ると、説得や小言を繰り返した。中身はよく聞き取れなかった。僕の心はすっかり燃え尽きていた。「やめる」と重ねるように言って身支度を始めた。次々(と言っても大して物はなかった)にごみ袋に放り込んでいった。

最後に、机の上に煙草と錠剤だけが残った。

煙草はTに渡そうと差し出したが、いらないよ、と拒否された。錠剤は唯一の遺書として残そうと決めた。

教室を出て、廊下を歩き、洗面所に向かった。

後ろからTが追いかけてきた。彼の姿は小学校の頃に僕をいじめていたMになっていた。

洗面所に僕が立っていると、鏡越しにMは「勝手なことをするなよ」と言いながら腕を巻き付けるようにして僕の首を締めた。息が苦しくて、僕は必死に抵抗した。

抵抗しながら、僕は自分の人生を嘔吐するように吐きだした。止まらなかった。僕は、こんなに辛くて、孤独で、体も心も、なにもかもがめちゃくちゃになっちゃったんだ。

彼は、首に腕を巻いたまま、ふっと力を緩め(それは背後から抱きしめてもらっているような安心感に変わった)、静かに耳を傾けていた。

あと、もう一つだけ秘密を言うとね、と僕は秘密を打ち明けるように囁いた。僕は、少し先の未来から来たんだ。やり直せるなら一体いつだったんだろう、ということを探るために。

じゃあ、その未来に戻るのかよ、と彼は言った。

僕は、「それもやめた」と言った。「やり直せないことが分かったから。どうせ絶望だと分かったから」。そして、洗面所を出た。彼は、僕の腕や背中にしがみつくようにして、「未来に戻るか、ここにいるか、どっちかにしろよ」と言った。

僕は答えることができなかった。

洗面所を出て、再び廊下を歩くと、鍾乳洞のようなひんやりと暗い、不思議な空間に出た。真ん中には泉のように水が溜まっていた。泉の向こうには、ぼんやりと青白い光が見え、背後には相変わらず実家の一室があった。

Mの姿は、もうどこにもなかった。

代わりに母親が姿を現した。慌ただしく、帰ってきたばかりといった様子だった。僕が中学生くらいの頃、今よりも、もう少しだけ若かった頃の母親だった。小学生のときの担任の先生ともどこか雰囲気が似ていた。

どうしたの? と母は言った。

僕は、「帰る」と言った。

そして、いったん足を踏み出してから、すぐに戻って、母にすがりつくようにして泣いた。涙は出なかった。喉が詰まって声も出ない。それでも、手綱を振り切るように声をあげた。

母は、「ほら、ご近所さんに聞こえるから。まったく、ごめんなさいね」と外に向かって頭を下げ、やがて一緒に泣き崩れた。

僕の瞳からは最後まで涙が出ることはなかった。声だけで泣いていた。そして、そのままゆっくりと世界に溶けていくように目が覚めた。

目が覚めたとき、声はなく涙だけがこぼれ落ちた。

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2016-03-24 | Posted in 夢の記録