"影とともに生きる"意味 - 村上春樹アンデルセン賞の受賞スピーチ | コップのお話 〜体と心と自然の物語〜
 

文学と芸術

“影とともに生きる”意味 - 村上春樹アンデルセン賞の受賞スピーチ

 
Glass Story

縦棒  「影の意味」

童話作家アンデルセンにちなんだ、デンマークの文学賞(アンデルセン文学賞)で、村上春樹さんが受賞スピーチを行いました(英語版の全文)。

そこで彼は、アンデルセンの『影』という、主人公が影に殺される「暗く望みのない」ファンタジーを引き合いにして、私たち自身の背後に「影」が伸びていくように、国家や社会にも「影」は存在するのだ、と言います。

“人間一人一人に影があるように、あらゆる社会や国家にも影がある。明るくまぶしい面もあれば、それに釣り合う暗い面もある。”

そして、光のみを享受し、その不都合な「影」を排除しようとすれば、影は、もっと強大になって帰ってくる、と。

登壇した村上さんは ───「私たちは時に、影の部分から目を背けようとします。あるいは無理やり排除してしまおうとします。でもどんなに高い壁をつくって外から来る人を締め出そうとしても、どんなに厳しく部外者を排除しようとしても、あるいはどれだけ歴史を都合のいいように書き直したとしても、結局は自分自身が傷つくことになる。自らの影、負の部分と共に生きていく道を、辛抱強く探っていかなければいけないのです」と語った。

出典 : 村上春樹氏、授賞式で「影」を語る アンデルセン文学賞|朝日新聞デジタル

このタイミングで発せられたこの言葉には、様々な解釈が考えられるでしょう。

たとえば、アメリカ大統領選のトランプ候補の「メキシコの壁」発言に象徴されるような移民、差別など各地で起きる排他的な動きや、あるいは都合の悪い過去の歴史を未来である今書き換えようとする「歴史修正主義」に向けた意味合いもあるかもしれません。

と同時に、一人一人の心の「影」に関する本質をついた言葉でもある。

光だけを享受し、その結果として現れる「影」をどれほど排除しようとしても、そして、事実排除し、目隠しをしてきたがゆえに、次第に、それは取り返しのつかない大波に変化していく。


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このときに生じる悲劇というのは、(あくまで一時的ですが)、光を享受する者と、その暗い大波に飲み込まれる者が往々にして違う、ということです。

一部に、あるいは過去の一時期のだれかが大量に浴びた光。その影に、今、私が、あるいはあなたが覆われる。

ただ、ここで「一時的」と注釈をいれたのは、いずれ、それは丸ごと世界を覆い尽くすことになるだろうからです。

“結局は自分自身が傷つくことになる。”

だからこそ、僕たちは、「自らの影、負の部分と共に生きていく道を、辛抱強く探っていかなければいけない」のです。

 

影 (あなたの知らないアンデルセン)

影 (あなたの知らないアンデルセン) / クリスチャン・アンデルセン

 

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2016-10-31 | Posted in 文学と芸術