文学と芸術
電磁波・化学物質過敏症と文学 - 小説の世界で描く、「食べられない」ことの悲劇

Glass Story
化学物質過敏症と文学
化学物質過敏症を描く小説や映画というのは、ほとんど存在しません。
文学の世界で描くためには、この症状はあまりに生々しく、また、この近代社会で、化学物質や電磁波を使用せずに日常を描くことも恐らく不可能なことでしょう。
そもそも、この病気の現実自体が、まるでSF文学のようだと言っても過言ではないかもしれません。
追いやられる心身
たとえば、ある化学物質過敏症の女性は、目に見えない、忍び寄ってくる化学物質から逃れに逃れて、最後は自殺に至らざるを得ませんでした。
医師は大抵の場合、この病気の存在を否定したり忌避しようとします。
なぜなら、医学そのものが化学物質の温床とも言えるので、自分たちの存在基盤そのものの否定を突きつけてくる危険性のある現実から、目を背けたい、という心理的なメカニズムが働くのです。
こうした寄る辺のない孤独に加えて、合成洗剤、煙草、添加物、隣人の香料などが、彼女を世界の片隅に追いやっていく。
緑豊かな田舎に引っ越しても、今は田舎の方が、農薬や野焼き、工場の排煙、原発などで汚染されている、という現実もある。
友人や家族も、離れていく ─── 離れていくというよりも、自分から離れて行かざるをえません。
彼女には、その間も、唯一ずっと支えてくれた夫の存在がありました。
ただ、「生きること」、その壮絶な苦痛を、夫は誰よりも近くで見てきました。
しかし、ついに逃げ場と行き場の失われた彼女は、その支えであった夫に、「あること」を懇願したと言います。
彼女は、自分を自転車の後ろに乗せて、飛び降りるためのマンションに連れていってくれるよう命がけで求めたのでした。
苦しみに耐えきれず死を選ぶ人は少なくない。それが化学物質過敏症の恐さ。夫人の自殺願望も日を追うごとに強くなっていて、山内さんはそれを抑えるのに必死だった。
事件の1週間前、「今日死ぬ」と言い、出て行った夫人を連れ戻した。
4日前「死ぬのにいいマンションがある」と夫人にせがまれて現場へ行き、思いとどまるよう説得して帰宅した。
2004年4月25日、夫人がマンション11階から自殺した。
そして、妻を自転車の後ろに乗せて現場まで連れて行って自殺を手助けしたという自殺ほう助の罪で山内さんが逮捕される。
開拓しようとする患者たち
また、電磁波過敏症の患者たちが、米国のウェストバージニア州グリーンバンクに集まってきている、という話があります。
その地は、人口がわずか150人ほどの過疎地。
その場所になぜ患者たちが集まってくるのかと言うと、そこには世界一の感度を誇る電波望遠鏡があり、観測の健全性を保つために、電化製品が厳しく制限されているのだと言います。
電磁波過敏症も、基本的には化学物質過敏症と同様、身体にとっての「文明」過敏症です。
その「文明」を背負いきれなくなった自然物である身体が、この地に引き寄せられてきた。
この現象そのものが、壮大な、新しい物語の息吹を感じさせるものではないでしょうか。
人口143人のグリーンバンクが、電磁波過敏症に悩まされている人たちのメッカとなっているのだ。ここへ移り住んできた人たちは一様に、片頭痛などの悩んでいた症状が消えたと述べている。
病人が描いた「食べられない」芸人の話
こういった、着実に進行しつつある紛れもない現実が、すでに歴史の転換を示唆する壮大な物語の序章のように見えます。
そこに、近代文学と言うのは、ほとんど入り込む余地がないのかもしれません。
ただ、唯一、この「文明」過敏症を予言的に描いた物語ではないかと思える作品が一つだけあります。
それは、チェコの作家フランツ・カフカ(1884~1924)が、死の間際の病床で執筆した、「断食芸人」という不思議な短編小説です。
主人公の断食芸人は、サーカス団の一員で、断食を芸として見せ物にしていました(実際に、そういう芸があったそうです)。
当初は、檻の周辺に、子どもたちを筆頭に大勢の観客が立ち並んでいたのですが、徐々に人気も衰えていった。
古びた檻は、すっかり静まり返っていました。
従業員たちが、もう誰もいないのだと思って檻を片付けようとすると、敷き詰められた藁の下から、げっそりと痩せこけた瀕死の断食芸人が姿を現しました。
君はまだ断食をしていたのか、と驚いた現場監督が尋ねます。
ええ、と断食芸人は弱々しく呟く。
感心するね、と監督は言う。
断食芸人は、いいえ、感心などしてはいけません、他に仕様がなかったのです、と囁き、キスをするように口をすぼめながら、最期の言葉を監督に向かってこう告げるのでした。
「自分に合った食べ物を見つけることができなかった。もし見つけていれば、こんな見せ物をすることもなく、みなさん方と同じように、たらふく食べていたでしょうね」
とたんに息が絶えた。
その後、空になった檻には、猛々しい豹がやってきました。
檻のなかを飛び回り、燃え盛るような獰猛な豹の姿に、誰もが息をのんで、いつまでも見とれているのでした。
断食芸人―カフカ・コレクション / フランツ・カフカ、池内紀訳
病者カフカ―最後の日々の記録 / ロートラウト・ハッカーミュラー、平野七涛訳
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