文学と芸術
人生というアート|サバイバルで生きる、お金を使わない男の葛藤の実話
Glass Story
タイトルと表紙に惹かれ、「スエロは洞窟で暮らすことにした」というノンフィクションを読んだ。
これは、米国ユタ州の洞窟で暮らす、一人の「お金を使わない」男の実話である。
彼は、幼少期の頃からキリスト教原理主義の家庭に育ち、厚い信仰心を持って成長した。
ところが、キリスト教国家の米国を中心にした資本主義の暴走に疑問を抱くようになる。
そこで彼は、聖書だけでなく、仏教やヒンドゥー教、またソクラテス、ソロー、トルストイなど、哲学者や作家の教えも学び、新しい人生の形を模索していった。
これはサバイバルの手法を掲載したハウツー本とは違う。
そういう生き方に至る過程で、彼は、苦悩し、葛藤し、試行錯誤した。
これは、その彼の人生を真っ正面から提示した、一つの芸術作品と言っても過言ではないと僕は思う。
たとえば、今は日本も似たような状況だが、1990年代の米国では多くの国民が向精神薬の常用と副作用に苦しんでいたと言う。
1990年代の米国人の10%がそうであったように、プロザック、ゾロフト、ウェルブトリン(いずれも抗うつ剤の商標)のカクテルで、骨の髄まで薬漬けになっていたのだ。
___『スエロは洞窟で暮らすことにした』マーク・サンディーン著
スエロも例外ではなかった。
副作用の頭痛やめまい、脳内でジージーと鳴る音に苦しみ、まずは薬を使わずにうつ病を治そうと決意した。
自然療法の医師からは、天然のオトギリソウを勧められた。
錠剤を半分に割ることから始めて、次は四分の一に、それから八分の一に。そしてとうとう、最後に粉末状になった薬をトイレに流した。
___前出『スエロは洞窟で暮らすことにした』
また、スエロは、消化不良や膨満感、極度の疲労感なども抱えていた。
自然療法の医師は、彼を慢性疲労症候群と診断し、抗真菌薬(腸内カンジダ症だろうか)と消化酵素を処方する。
ようやく回復に向かっていった。
こうして体調を万全に整えた彼は、がんじがらめの貨幣制度や物質主義に取り込まれない生き方を模索する旅に出たのだった。
確かに、資本を信仰する世界では、スエロの生き方は異端だろう。
彼の生活を、そのまま真似することも難しいと思う。
それでも、彼が思考を巡らした道のりは、人口の1%が富を独占すると言われる、これからの社会では、多くの人々が、一度は必ず通る道になるだろうと僕は思う。
この本は、読後、まとわりつく閉塞感を振り払う、心が伸びをするような心地よさをもたらすことだろう。



