社会とビジネス
スローフード的成長戦略|経営者や社員スタッフとアルバイトのすれ違いの解消方法

Glass Story
スローフードを標榜した都心のレストランに勤めている知人に、経営者や社員、そしてアルバイトの間のすれ違いを物語った、あるエピソードを聞いた。
そのレストランは立地もよく、固定ファンもつき、それなりに賑わっている人気店であった。
ただ、決して諸手を挙げて喜べるほどは業績が芳しくはなかった。そのため本社はAという新しい経営者を呼ぶことになった。
Aは、経営の立て直しのために、恐らく経営の教科書に書いてある成長戦略の一貫として、各店舗の店長にコストカットを命じた。
そのコストカットの中身とは、要するに「材料費」と「人件費」の削減であった。
たとえば、「材料費」を削るために、いくつかのディナー料理の素材にレトルトのものを使う。
また、看板商品であるデザートは、「刷新」と、さも改善のように謳っておきながら、実際は、名前や値段はそのままにも関わらず、表記義務のない添加物を混ぜ込むことで相対的にコストを削減する。
つまり、本物の一部を偽物にすることでコストカットし、利益という効果を手早く上げようとしたのである。
もう一つ、「人件費」については、リストラしようにも、もともと正社員の数自体が少なく、アルバイトに頼っていた。
そのため、「相対的な削減」に努める必要があった。
相対的な削減、それは、過重労働、ブラック企業化である。
極端な話、一人の社員に同じ給料で二倍働いてもらえると、企業としては経費を半分に抑えられる。
コスパがいい、というやつである。
社員の疲労や不満がつのるのは当然である。また、材料費の「インスタント化」は、そもそもの企業哲学とは反したものであり、社内のモチベーション低下に繋がっていく。
アルバイトにも負担がかかる。
人手不足を解消しようとせずに、使い勝手のいい学生アルバイトやフリーターを、彼らの将来のことなどこれっぽっちも考えることなく、企業の身勝手な短期的利益のためにこき使ったり、ほつれた穴を適当な派遣社員で取り繕う。
それにも関わらず、経営陣は、スタッフに「金のためではなく店のために働け」と言う。
これは、まったく荒唐無稽な要求だと僕は思う。
なぜなら、企業側が、信念や使命ではなく「金のために」運営しているのだから、アルバイトも「金のために」働く。
子は親の背中を見て育つものだ。
企業側は、コスパの良い店員を欲し、客に「ずる」や「インスタント」を、こっそりと混ぜ込むことで経費を削減しようとする。
とすれば、当然、アルバイト側もコスパを求めて、「ずる」や「インスタント」を、自分の仕事に混ぜ込むようになる。
そのような企業では、スタッフにとっての客とは、実際のお客さんではなく、企業になっているのだ。
大切なことは、「金のため」以外の哲学やビジョン、使命感の共有である。
スタッフを一つに繋ぎ止める「何か」が欠けたままでは、その狭い空間の内部で、鬱積した不満が、意地悪や苛立ち、無気力に姿を変えて、弾け、飛び交い、不協和音を奏でながら、機体はバラバラになって落ちていくだろう。
これはたぶん、多くの企業で陥っているパターンじゃないかと僕は思う。
短期的な利益を求める。
信念やビジョンよりも、早急な「金のため」を優先する。「ずる」や「インスタント」によって、スタッフや客にしわ寄せが行く。
疲労が溜まり、モチベーションを失ったスタッフの間ですれ違いや不協和音が生じる。
敏感な客もまた、その不穏な空気を察知し、固定ファンは、信念の失われた店から離れていく。
そして、最終的に空っぽの店だけが残る。
僕は経営者ではないから、裏の苦労は知らない。株主からのプレッシャーなど急かされるような切迫感もあるのかもしれない。
でも、不思議なことに、失敗すると分かりつつ、大抵がその道筋を歩んでいるような気がする。
モテたいと思ったら、どんな風にするだろう。
全員に愛されようと目論み、誰に対しても雑誌に書いてあるようなことをして、特徴をどんどんと平地にしていくよりも、たった一人に愛されるために自分を磨き上げる方が、結果的にはモテるんじゃないだろうか。
もちろん、一見すると本命に見えるような、思わせぶりな、「インスタント」な愛をばらまくことで、短期的にはモテる感覚を味わえるかもしれない。
でも、そういった形で結びついた関係というのは、見せかけだけの、ほどけ易い結びつきになってしまうだろう。
それは経営者とスタッフのあいだにしても、スタッフとお客さんのあいだにしても同様である。
すれ違いを解消し、社内を団結させるために、なによりも大事なことは、スタッフたちの心の声に耳を傾ける、ということだ。
それは、我がままを聞いたり、言いなりになれ、ということではない。
仕事中、彼らが「いちばん幸せな瞬間はいつか」と考える。
そのとき思い描く瞬間や光景こそ、スタッフたちの目指したい方向性、大切にしたいこと、すなわちモチベーションの根幹を物語っている。
それは経営者自身が自問してみてもいいと思う。
そこに、未来に向けたヒントが隠されているだろう。
この国の問題点は、色々と底で繋がっている。
政治家は、短期的な得票のために、公約に「ずる」や「インスタント」、あるいは「誇張」を混ぜる。
経営者も、短期的な利益のために、スタッフや素材に、「ずる」や「インスタント」、あるいは「誇張」を混ぜるだろう。
彼らのような為政者だけでなく、僕たちも、恋や就活のために、顔や性格、経歴に、「ずる」や「インスタント」、あるいは「誇張」を混ぜてはいないだろうか。
この企業の、この地方の、この国の、自分自身の、特性や使命、立地、理想、未来のビジョンとは何か、ということを真剣に考え抜き、ときに語り合い、その混沌を、言葉や身ぶりや服装や商品やサービスといった表現に落とし込み、研ぎすませていく。
完璧は不可能かもしれない。ときにはバランスをとる必要もあるだろう。
ただ、そちらの方角に向かっていく、ということが大切だと僕は思う。
そして、その方が、結果的には、ゆっくりと着実に「モテる」ようになっていく気がするのだ、自分自身にさえも。
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