文学と芸術
長渕剛のFNS歌謡祭の言葉とメッセージ

Glass Story
長渕さんのメッセージ
フジテレビのFNS歌謡祭で歌手の長渕剛さんが『乾杯』の曲に入る前に叫んだ「メッセージ」が、賛否と、そして嘲笑を浴びました。
その「メッセージ」の全文が、以下の通りです。
アメリカ大統領が誰になろうとも
凶とでるか吉とでるかってそりゃ俺達次第じゃねぇか今日もマスメディアの誰かが無責任な話ばかりしている
正義のツラして知ったかぶりしてる奴の言うことに耳を傾けてる 俺これ以上 答えのねぇ話なんか聞きたかねぇ
歌の安売りするのも止めろ日本から歌が消えていく
日本から言葉が消えていく……自らの言葉をつむぐ歌い手たちが群れをなして魂の歌を産むならば
俺たちは歌によって正しい道を見付ける事が出来るのにウ・タ・ヨ・ノ・コ・レ
ウ・タ・ヨ・ノ・コ・レ
俺たちの東北、仙台、俺たちの九州、熊本そして福島も頑張ってんだ
オリンピックもいいけどよ
若者の貧困、地域の過疎化どうする?騙されねぇぜマスコミ
騙されねぇぜヒットチャートランキング
騙されねぇぜワイドショーところで、
けなげな少女の瞳が今日も銃弾に打ち抜かれていく
岸に倒れた名もない兵士は母の名を叫んで死んだ
アジアの隅に追いやられてきたしなびきったこの島国で
屈辱の血ヘドを吐きながら今日も俺達は歌う
日本から歌が消えていく、日本から言葉が消えていく、という箇所は、長渕さんの声と相まってジンとくるものがありました。
歌
一方で、この長渕さんの「魂の叫び」に、ある番組でラサール石井さんが、「このメッセージを、ちゃんと『乾杯』だけを歌う、ということで表現した方が格好いい」とコメントしていて、なるほど、それも非常に納得のいくものでした。
この件、そしてこのラサールさんのコメントを見て、ふと昔読んだ坂本龍一さんの言葉を思いだしました。
彼は、作家の辺見庸さんとの対談本『反定義 − 新たな想像力へ』で、音楽に直接的なメッセージを載せることに懐疑的な意見を述べています。
音楽にのせて何かをいうんじゃない。音楽にメッセージをのせて何かをいわせるというのは、だめだと思うんです。
音楽自身が何かをいう。
音楽なんか楽しめる状況じゃない。そのときに、人類には音楽というものがあるよということを、音楽自身が訴える。ぼくたちに思い出させてくれる。それが音楽だと思う(坂本)。
こうした坂本さんの意見を踏まえて、辺見庸さんは次のように言います。
うまくいえないのですが、いま大事なのは、わかりやすいメッセージを持たずに孤立するということを避けないことじゃないか、自分たちが表現することに直接的なメッセージ性を持たせないことだと、ぼくは思ってるんですけどね(辺見)。
音楽で世界を変えることができるでしょうか。言葉で、詩で、映像で、芸術で、何かを超えていけるのでしょうか。
それとも、その力んだ拳によって、「歌」はすでに握りつぶされてしまっているのでしょうか。
賛否があるというのもわかるし、嘲笑する、というのも理解できます。
もはや人々は疲弊し、あらゆる真剣さをへらへらと笑いたいと希求し、メディア社会はあらゆるものを滑稽な見世物に変える暴力性を持っているのですから。
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