文学と芸術
奥山由之の哲学、写真家の考える表現の「一貫性」「個性」「自分らしさ」の探し方。

Glass Story
自己表現と、自分らしさ
一昔前まで、「表現」というのは一部の特殊な人たちの趣味や能力に過ぎなかった。
たとえば、映画監督や写真家、ミュージシャンや作家といったプロの表現者。
あるいは、習い事で子供の頃からピアノやダンスを行っていたり、専門学校や芸大でイラストやデザインを学んでいるといったケースがほとんどだった。
だから、「表現」についての悩み[自分らしさ、個性、一貫性など]も決して一般的なものではなかった。
しかし、マスメディアの発達を経て、ITの浸透とともに誰もが「表現」することのできる時代になった。
かつて芸術家のアンディ・ウォーホルは「将来、誰でも15分は世界的な有名人になれるだろう」と言った。その通りの時代がおとずれた。
スマホで高画質な写真を撮影し、アプリで加工し、インスタグラムに公開する。動画を撮影し、Macで編集し、YouTubeにアップする。
ツイッターでことばに想いをのせる。
しかし、こうして誰もが「表現」できるということは、言い換えれば、誰の「表現」したものも容易に見ることができる、ということでもある。
我々は、膨大な表現物(イメージ)で溢れた世界を呼吸している。
そして、表現というのは、「自己表現」という言葉もあるように多かれ少なかれ「自己」の投影であり、それゆえ、表現物で溢れた世界というのは、鏡に映し出された各々の「自己」で囲まれた世界とも言える。
こうした息苦しい世界では、自ずと「自分らしさ」や「一貫性」など「個性」の問題が浮上してくる。
そこには、日常にあふれ返る素晴らしい表現物によって劣等感に苛まれたり、また、似たような「表現」や「鏡像」に埋没していく「自分」に対する抵抗感が働く、といった要因が挙げられるだろう。
いつでも誰とでも交換可能な自分でありたくない、という焦燥。
だからこそ、一貫性を持った、自分らしい自分でありたい、と思う(「ありのままで」という言葉もその一環である)。
多くの「顔」が映し出されるメディア社会で育った若者たちにとって、「自分らしさ」というのは息継ぎするための人工呼吸器なのだ。
写真家・奥山由之の哲学
若手写真家の奥山由之 [ http://y-okuyama.com/ ] さんは、1991年生まれ、「写ルンです」を多用することでも有名で、10代の頃から才能を認められてきた。
今では、広告やCDジャケットだけでなく、サカナクションや haruka nakamura のMVといった映像作品も手がける注目のクリエイターの一人である。
この奥山由之さんの「自分らしさ」に関する考え方、哲学が、今のような誰もが表現者であり、またどこでも表現物で溢れる時代に、とても参考になるものだと僕は思う。
それは、以前対談の際に、写真を撮っていると言う若い女性の「個性的な、自分らしい作品をつくるためにどうすればいいか」という質問に答える形で奥山さんが語っていたこと。
彼は、「自分らしさ」の探し方について、自分自身も「自分らしさ」は分かっていないと言い、探す必要もないと言う。
ただ、「スタイル」は持っておくべきだ、と。
以下、そのときの奥山由之さんの答えを、そのまま引用する。
僕は、「自分らしさ」を自分でもよくわかっていなくて。
自分らしさは、自分が気づいた時点でほんとうの「自分らしさ」ではないと思ってて。
これが「自分らしい」と思ってやることってもう意図的な要素が入ってるじゃないですか、もうそこに意思があるんですよね。自分はこういう風に見せるっていう「自分らしさ」があるから。
ただ「これがいい」と思ってやり続けること。
自分らしさはこうだ、って周りが言ってくれる、言われるって見方もできると思うんですけど、言われたときに、そういうことをもう意識せずに、自分はこれがいいと思って、「自分らしさ」を、いい意味でわかり続けないままやり続けることって逆に難しくて。
自分らしいっていうのは、自分で決めなくていいと思うし、知らなくていいと思います。
ただ、自分の「スタイル」ってのは、絶対持ってたほうがよくて。
自分はこれに対してこだわりがある。それはつくることじゃなくても、白いスニーカーを絶対履くとか、そういうところからだんだんに自分の、なんかこう、自分のスタイルを貫き通せば、周りが自分らしさに気づいてくれる、と思うから。
これが自分らしさである、と自分で認識すればするほど、「自分らしさ」の純度は低くなる、と彼は言う。
結局、それは本当の「自分らしさ」ではなく、どう見せたいか、どう見られたいか、という「自分らしさをマネジメントする技術」の問題になっていくのである。
だから、「自分らしさ」の探し方というのは、逆説的ではあるが、「自分らしさ」を忘れることなのだ。
予め「自分らしさ」を探そうとするのではなく、言葉や論理を越えた「これだ」という「スタイル(こだわり)」を持って、ただ歩んでいくこと。
素直に、地道に、心から好きだと思えるものを大切にしていくこと。
その道のりや足跡を、自ずと、いつか誰かが「一貫性があるね」とか「あなたらしさ」と呼ぶようになるのである。
最後に奥山さんは、これだけは言っておきたいという口ぶりで、写真を撮ることについて次のようにアドバイスした。
死ぬほど、撮ること。
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